猫の慢性腎臓病(腎不全)はどんな病気?
腎臓は体内の血液を濾過して、老廃物をおしっことして排泄するという大切な働きをしています。
このろ過作業は、小さな「ろ過工場」であるネフロンが行います。ネフロンは、血液中の余分な水分や老廃物を取り除き、体に必要な成分を再吸収する大切な役割を果たしています。
なんらかの原因によって長期間腎臓の機能が低下し、老廃物や水分を十分に排泄できなかったり、逆に水分を排出しすぎて脱水してしまう状態が慢性腎臓病(腎不全)です。
高齢の猫に多い病気です!
年齢に関係なく発症しますが、7歳頃から増加し、10歳以上になると発生率が急増します。
猫が腎臓病になりやすいのはなぜ?
猫は他の動物よりも腎臓病になりやすく、高齢になると3頭に1頭は腎臓病になると言われています。
アニコムHD株式会社が公開している「家庭どうぶつ白書2023」では高齢猫(8歳以上)のよく見られる病気の中で2位に慢性腎臓病(腎不全含む)が入ってきています。
順位 | 疾 患 名 | 請求割合 | 頭数 |
---|---|---|---|
1 | その他の泌尿器疾患 | 11.7% | 70,499件 |
2 | 慢性腎臓病(腎不全含む) | 10.4% | 68,036件 |
3 | 嘔吐 / 下痢 / 血便(原因未定) | 7.8% | 10,669件 |
猫が腎臓病になりやすい原因はまだ完全に解明されていませんが、いくつかの要因が影響していると考えられます。
- 年齢: 高齢になると腎臓の機能が自然に低下する
- 遺伝的要因: 特定の品種(ペルシャ・や家系において、遺伝的な素因がある
- 栄養と食事: リン(P)やたんぱく質が多い食事が腎臓に負担をかける
- 環境要因: ストレスや不適切な環境が、猫の健康に悪影響を与える
- 他の病気: 糖尿病や高血圧などの疾患が腎臓病を引き起こす
猫はネフロンが少ない
猫は人や犬に比べて腎臓のネフロンが少ないです。人のネフロンの数が約200万個、犬が約80万個に対して、猫は約40万個しかありません。
ネフロンは 体内の血液をろ過する重要な役割を果たします。猫は、この「ろ過工場」が少ないので、血液をろ過する速度が遅くなります。その結果、体内で水分を再吸収するときに時間がかかります。
猫はもともと乾燥地帯の生き物であり、率の低い濾過システムを持つことで水分を節約する進化を遂げてきたのではないかと考えられます。
猫の慢性腎臓病を理解しよう
慢性腎臓病の特徴
元に戻らない腎臓機能の低下
慢性腎臓病は、一度壊れた腎臓の組織が元に戻らない病気です。
腎臓の機能が徐々に低下し、正常な腎機能を維持できなくなります。
長期間にわたる進行
病気の進行は非常にゆっくりと進みます。
初期段階では無症状であることが多く、飼い主が気づく頃にはすでに進行している場合があります。
多様な症状
慢性腎臓病の症状は多飲多尿、食欲不振、体重減少、毛ヅヤの悪化、口臭(アンモニア臭)、嘔吐などが含まれます。
これらの症状は、腎臓の機能が著しく低下したときに現れることが多いです。
診断基準
血液検査によるクレアチニン(CRE)やSDMAの値が重要な指標となります。
尿検査、超音波検査、血圧測定なども併用して診断されます。
※クレアチニン(CRE): クレアチニンは筋肉から放出される老廃物で、腎臓の機能が低下すると排泄が不十分になり、血液中の濃度が上昇します。高いクレアチニン値は腎機能の低下を示す重要な指標です。
※SDMA:SDMAは腎機能の比較的新しい指標です。腎機能が低下すると血液中のSDMA濃度が上昇します。腎機能のわずかな変化を早期に捉える能力が高く、早期の腎機能障害の発見に役立ちます。
IRISによる慢性腎臓病の治療ガイドライン2023
IRIS(International Renal Interest Society:国際獣医腎臓病研究グループ)とは、小動物の腎臓病の研究と治療を促進するために設立された国際的な組織です。
IRISは、腎臓病の進行状況をステージに分けて治療の効果を評価しやすくし、最新の科学的根拠に基づいた診断と治療のガイドラインを臨床獣医師に提供しています。
このガイドラインは3~4年ごとに更新されており、2023年に最新のガイドラインが公開されています。
当院でもこのガイドラインを基に個々の病状に合わせて治療方針を考えています。
IRISの慢性腎臓病のステージ分類
ステージ1
無症状であることが多く、猫は普段通りに元気に見えることがよくあります。ただし、血液検査を行うと、クレアチニンやSDMAの数値がわずかに上昇していることが確認されます。腎臓の残存機能がこの時点で約30%まで低下している可能性があります。
ステージ2
多飲多尿の症状が見られることが多くなりますが、他の症状はまだほとんど現れません。
ステージ3
この段階でようやく食欲不振や体重減少など、より顕著な症状が現れ始めます。ただし、症状の現れ方には個体差があります。
ステージ4
いわゆる末期です。腎臓の機能は10%まで低下し、重篤な症状が見られるようになります。
猫の慢性腎臓病の症状
食欲がなくなったり、体重が減ってくると飼い主さんも「おかしいな、病気かな?」と気づくことが多いと思います。
- 水をよく飲むようになった(多飲)
- おしっこの量や回数が増えた(多尿)
- 急に毛ヅヤが悪くなる
- 食欲がない
- 体重が減った
- 口臭(アンモニア臭)がするようになった
これらの症状が出る頃にはステージ3まで進んでいることが少なくありません。
そのため、飼い主さんは、ステージ2から見られることが多い水をよく飲む、おしっこの量や回数が増えるという「多飲多尿」の症状に特に注意して見てください。
初期症状の多飲多尿とは?
腎臓の機能が低下するとまず尿の濃縮機能が低下することが多く、尿量が増えます。そうすると体の水分量が減るので、それを補おうと水を多く飲むようになります。
「多飲多尿」は他の症状に比べて初期に現れることが多いですが、この頃には食欲もあり、元気に見えることが多いので症状を見落しがちです。
普段から飲み水の量やトイレの状態をチェックして、「多飲多尿」かもしれないと思ったら病院での検査をおすすめします。
慢性腎臓病の治療とは
一度壊れてしまった腎臓の組織は元に戻りません。
そのため、慢性腎臓病の治療では、残っている健康な腎臓の部分を守り、病気の進行をできるだけ遅らせて、猫が少しでも快適に過ごせるようにすることが目標です。
また、同じ慢性腎臓病のステージだったとしても出る症状は個々違います。それぞれの病状や症状を把握して、治療を行う事が大切です。
例えば、食欲がないという症状が出ているとして、その原因はいくつか考えられます。体内に老廃物や毒素が溜まり、猫が気分を悪くして食欲がなくなっているのか、腎性貧血を合併してが食欲が無くなっているのか。
原因によって治療が変わってくるため、適切な検査を行い、原因に基づいた治療を進めることが求められます。
治療の一例として、点滴を使って体にたまった毒素を尿として排出しやすくしたり(点滴治療)、症状に応じて薬を使います(投薬治療)。 たとえば、血圧を下げる薬や、腎臓に負担をかけるリンを減らす薬などがあります。
また、腎臓病が進行して腎臓の機能が著しく低下した場合、体内の老廃物や毒素を自然に排出することが困難になります。そうした場合には、透析治療が必要となることがあります。
食事療法
食事療法は慢性腎臓病の進行を遅らせるために重要な治療の一つです。
療法食は病気の進行状態にあわせて腎臓に負担をかける栄養素(リンなど)の調整をしながら必要なカロリーを効率よく補給することができます。
さまざま味の選択肢がある療法食も多く出ていますので、愛猫の好みにあったものを見つけてあげてください。また、水分補給がしやすいのでウェットタイプのフードがおすすめです。
さらに、腸内環境を整える食生活を取り入れることも、体内の毒素を減らす効果があり、腎臓への負担を軽減し、全体的な健康状態をサポートします。
もし全く食べない場合は、療法食にこだわらず、食べられるものを見つけてあげることが重要です。好みに合うものを相談しながら見つけていきましょう。筋肉量を維持し、痩せないようにすることが大切です。
早期発見・早期治療には健康診断!
慢性腎臓病は完治する病気ではありませんが、適切な治療を行うことで進行を遅らせ、辛い症状を和らげることが可能です。
そのためには、早期発見と早期治療が非常に重要です。
慢性腎臓病は目立つ症状が現れるまでに病気がかなり進行していることが多いため、定期的な健康診断が早期発見と治療の鍵となります。
少なくとも年に1回、シニア期には半年に1回は健康診断を受けることを心がけましょう。
お家でできるケア
水分を十分にとるように
いつでも新鮮な水が飲めるように用意してあげましょう。何カ所かに分けて置いてあげると好きな時に飲めるので良いです。
慢性腎臓病になると必要以上の水分がおしっことして出てしまい、脱水を起こしやすくなるので十分に飲んでいるか気を付けてあげてください。
水分を十分にとることは腎臓病の予防にもなります。
食事に気をつけましょう
腎臓に負担をかけないように、タンパク質やリンの量に気を付けてください。慢性腎臓病用の療法食に切り替えるのもよいでしょう。
予防のために、タンパク質やリンがたくさん含まれている食事を与え続けないようにしてください。
また、ドライタイプよりもウェットタイプの方が水分量が多いので半分ずつあげるのもおすすめです。
食べないときは?
食欲不振で食事をとらない場合は、早めに動物病院に相談してください。病状にもよりますが、痩せて筋肉量が減らないようにすることが大切です。体力を維持するためにも、食べることが治療の基本となります。
療法食にこだわらず、まずは食べられるものを優先することもあります。シニア向けの一般食など、動物病院で適切な食事方法を相談しながら見つけていきましょう。
様子をしっかり観察しましょう
慢性腎臓病は徐々に進行していく病気です。定期的に病院でチェックを受けることに加え、飼い主さんが日頃から注意深く観察することで、慢性腎臓病の進行に早く気づくことができます。
特に、多飲多尿の兆候に注意して見守ってあげてください。
様子がおかしい時や、何か気になることがあれば、早めに受診することを心がけましょう。